はじめに
パーキンソン病の患者が日中に強い眠気を感じることがあります。良質な睡眠を得るのが難しくなるため、結果として「なぜパーキンソン病の人はたくさん眠るのか?」と疑問に思われる方も多いかもしれません。
この記事では、パーキンソン病の患者がなぜ多く眠るのか、その原因や影響について解説します。また、睡眠の質を改善するためのちょっとしたヒントもご紹介します。
睡眠の重要性を理解することで、より良い休息を得られるよう一緒に取り組みましょう。質の高い睡眠を目指すことは、心身の健康を高める第一歩です。
パーキンソン病とは?
パーキンソン病は、脳の働きに影響を与える神経変性疾患です。主に60歳以上の高齢者に発症し、震え、筋肉のこわばり、バランス障害、動作の緩慢さ、発話の困難などが見られます。
これらの身体的症状に加え、不眠、悪夢や鮮明な夢、むずむず脚症候群、日中の過度な眠気など、睡眠に関連した問題も多く報告されています。
パーキンソン病の患者がたくさん眠る理由
パーキンソン病の睡眠障害は、薬や治療(脳深部刺激療法(DBS)など)によって引き起こされることがあります。DBSは、脳内の特定の領域に電気刺激を与えることで症状を緩和しますが、同時に睡眠リズムを乱す可能性もあります。
この電気刺激によりドーパミンの分泌が促進されますが、ドーパミンは睡眠と覚醒のリズムを調整する役割も持つため、治療によってそのバランスが崩れることがあります。
また、パーキンソン病の影響で心身をリラックスさせにくくなり、ストレスが増すことも睡眠の質を下げる要因です。ストレスは入眠や熟睡を妨げる大きな要素です。
パーキンソン病と睡眠の関係
パーキンソン病と睡眠の関係は非常に複雑です。
病気によりリラックスが難しくなり、ストレスが増大することで、入眠や睡眠の維持に悪影響が出る場合があります。さらに、治療薬やDBSなどの処置は体内時計を乱し、自然な睡眠リズムを損ないます。
眠りにつくまでの時間(入眠潜時)が長くなる傾向があり、途中で何度も目が覚めてしまうこともあります。むずむず脚症候群(RLS)もよく見られ、じっとしていられない衝動にかられることで、睡眠の妨げになります。RLSの原因は明確ではありませんが、ドーパミンの不足と関連があるとされています。
ナルコレプシーや睡眠時無呼吸症候群など、他の睡眠障害を併発する場合もあります。どちらも睡眠の質をさらに低下させる要因となります。
よく眠る患者は睡眠の質も良いのか?
すべてのパーキンソン病患者が同じような睡眠の質を得られるわけではありません。日中に強い眠気(EDS:過度の日中傾眠)を訴える患者の中には、かえって深く眠れているケースもあります。
米国神経疾患・脳卒中研究所による研究では、EDSのある患者は、ない患者に比べて浅い眠りやREM睡眠の割合が高く、深いノンレム睡眠が少ないことが判明しました。つまり、EDSがある人は眠る時間が長くても、睡眠の質は低い可能性があるということです。
一方で、生活習慣の改善(運動習慣・就寝前のカフェイン・アルコールを避けるなど)や、寝具を滑りやすくすることで寝返りがしやすくなるといった工夫により、睡眠の質の向上が見込めます。
運動は睡眠の質を改善するのか?
はい。運動はパーキンソン病患者の睡眠の質を改善するために非常に効果的です。以下に、運動が睡眠に与える6つの好影響を紹介します。
1. 入眠潜時の短縮
運動は睡眠への移行をスムーズにし、入眠潜時を短縮します。セロトニン分泌の増加や、ストレスホルモン(コルチゾール)の減少により、心身がリラックスしやすくなります。摩擦を軽減する寝具や衣類の使用で寝返りのストレスが減ると、さらなるリラックス効果が得られます。
2. 夜間の覚醒回数の減少
運動によりエンドルフィンが分泌され、脚の不快感やむずむず脚症候群による不眠が軽減されます。これにより、夜間に目が覚める回数も減ります。摩擦の少ない寝具は寝返りも楽になり、途中覚醒のリスクをさらに下げます。
3. REM睡眠と夢の記憶力の向上
定期的な運動はREM睡眠の質と夢の記憶力を向上させます。REM睡眠中の脳活動が活性化されることで、夢をよりよく覚えるようになり、睡眠の質全体も高まります。
4. 全体的な睡眠の質の向上
運動により体内リズム(概日リズム)が整い、深い眠りを得やすくなります。また、RLSや足の不快感も軽減され、快適な睡眠環境が整います。
5. 日中の覚醒度の向上
日中の眠気や倦怠感が改善され、集中力や活動意欲が高まります。これはエンドルフィンによる効果であり、血流改善によって脳機能も向上します。
6. メンタルヘルスの改善
運動はうつ症状や不安感を軽減し、自己肯定感や自信を高める効果があります。脳機能の改善により、認知力や記憶力も向上します。
パーキンソン病が進行しているサインとは?
以下は、病状の進行を示す可能性がある兆候です:
- 震えの増加
- 歩行困難や日常動作の障害
- 活動量の低下
- 筋肉のコントロール低下
- バランスや協調運動の悪化
- 発話の遅れ・音量の変化
- 筆跡の変化、ろれつが回らない、嚥下困難
- 疲労感の増加
- 顔の表情の変化
- 記憶障害や認知機能の低下
- 感情の起伏(イライラや不安感の増加)
- 睡眠の乱れ(入眠困難や中途覚醒など)
これらの症状が見られる場合は、早めに医師に相談することが重要です。的確な診断と迅速な対応が、病気の進行を遅らせ、生活の質を高める鍵となります。
まとめ
運動はパーキンソン病患者の睡眠の質向上に有効な手段です。定期的な運動により、入眠しやすくなり、夜中に目覚める回数が減り、REM睡眠も改善されます。ストレスの軽減、エンドルフィンの分泌促進、認知機能やメンタルヘルスの改善にもつながります。
運動を始める際は、必ず医師に相談しましょう。